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生理前の情緒が不安定。月経前不快気分障害(PMDD)について精神科専門医が説明します。

イライラする女性 うつ
患者さん
患者さん

はぁ~・・・また来た。
いつも生理前はイライラしたり不安になったりで周りに迷惑かけちゃうのよね。

院長
院長

おや、それは月経前不快気分障害かもしれないですね。

患者さん
患者さん

え!? 病気なの?
みんなそうかと思ってた。
治るの?

院長
院長

治療法もあります。でもまずは、診断・症状など月経前不快気分障害(PMDD)という病気について知っていきましょう。

月経前不快気分障害(PMDD)とは

頭を抱える女性

いつも生理前になるとイライラ・落ち込み・不安などで情緒が不安定になるけど、生理がはじまるとやがて改善してしまうことを繰り返し、生活に支障が出ている場合は月経前不快気分障害(PMDD:Premenstrual Dysphoric Disorder)の可能性があります。


生理のある女性の1.8~5.8%(約20人~50人に1人)にみられる病気ですが、病気とは思わずに、病院を受診していない女性も多いです。

月経前不快気分障害(PMDD)の症状

悲しむ女性と怒る女性

月経前不快気分障害(PMDD)の症状は、イライラ、不安、落ち込みなど、こころの症状が目立ちますが、乳房の圧痛など、からだの症状もあります。
アメリカ精神医学会(DSM-V)の基準では、以下のような症状が挙げられています。

こころの症状
【多い精神症状】
  • 突然悲しくなる。
  • 突然涙もろくなる。
  • イライラして怒りっぽくなる。
  • 気持ちが落ち込む。
  • 絶望感が出て来る。
  • 自分ってダメだなぁって思いが高まる。
  • いろいろ不安になる。
  • やけに緊張する。
  • 何だか気持ちがハイになっているという、高ぶりを感じる。
【その他の精神症状】
  • 仕事も学校も好きなことさえも、やる気が出ない。
  • 集中力が続かない。
  • 自分をコントロール不能って感じる。
からだの症状
  • 体が重い。
  • 疲れやすい。
  • 食欲の変化が激しく、食べ過ぎてしまう。
  • 特定の食べ物を、やたら食べたくなる。
  • 寝ても寝ても眠く、眠り過ぎてしまう。
  • 寝付けない。
  • 眠りが浅くて何度も目が覚める。
  • 胸の張りや痛み。
  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • 下腹部痛
  • 腰痛
  • 頭痛
  • むくみ

これらの症状は、生理がはじまると数日で改善していくという特徴があります。

院長
院長

改善してしまうために病院を受診すべきか迷ってしまう女性も多いです。

月経前不快気分障害(PMDD)の診断・セルフチェック

〇をかかげる女医
月経前不快気分障害(PMDD)のセルフチェック
  • 【多い精神症状】のうち1つ以上があてはまる。
  • 症状のうち、全部で5つ以上あてはまる。
  • ほとんど毎回、生理のたびに上記の症状があてはまる。
  • 生理がはじまると数日で症状が改善しはじめる。
  • 生理が終わった週には症状が一番少なくなる。
  • 症状のために仕事や学校など社会生活や人間関係に支障が出たりする。

上記のすべてにあてはまる場合は、月経前不快気分障害(PMDD)の疑いが強いです。お近くの精神科に受診することをお勧めします。

月経前症候群(PMS)との違いは?

疑問
  • 軽症:月経前症候群(PMS: Premenstrual Syndrome)
  • 重症:月経前不快気分障害(PMDD:Premenstrual Dysphoric Disorder)

という違いがあります。
具体的には、症状のうち、

  • 1つ以上あてはあまるだけで月経前症候群(PMS)
  • 5つ以上あてはまり、かつ精神の症状が目立つものを月経前不快気分障害(PMDD)

としています。

月経前不快気分障害(PMDD)の原因

原因については、明らかにはなっていませんが、生理に伴う女性ホルモン(黄体ホルモン、卵胞ホルモン、プロゲステロン、プロラクチンなど)の変化が関係しているのではと考えられています。

プロゲステロン

人体

プロゲステロンは、セロトニンという別のホルモンと相互に作用します。セロトニンはうつ病患者さんで低下しているホルモンであり、少なくなると

  • 不安
  • 気分の落ち込み
  • 意欲低下

などの精神の症状に影響します。セロトニンについて、詳しくは下記リンクで解説していますのでご参照ください。

またプロゲステロンの代謝産物は、抗不安薬のベンゾジアゼピンという薬と似た作用があります。どちらも脳内のGABAという部分に作用します。

GABAが刺激されると、

  • 眠くなる。(催眠作用)
  • 不安が減る。(鎮静・抗不安作用)
  • 筋肉の緊張やこわばりが減る。

といった効果があります。

逆に、プロゲステロンの変化は

  • 寝れない。(不眠)
  • 不安感
  • 落ち着かない
  • 筋肉痛

などの症状に影響するのではと考えられています。

プロラクチン

乳房の痛み

プロラクチンの増加は、

  • 乳房の腫れ
  • 乳房の痛み

などに影響します。

月経前不快気分障害(PMDD)の治療薬

薬

月経前不快気分障害の治療薬の第1選択はSSRIというセロトニンの量を増やす薬を使うように精神科・婦人科で共通に示されています。また不眠や痛みなどの症状に応じて、睡眠薬や鎮痛薬を症状が出ている期間だけ併用することもあります。

漢方を併用することもありますが、漢方の効果には個人差があります。

今回は「月経前不快気分障害(PMDD)」の説明でした。
病気と思っておらず、受診していない女性が多くいること、改善すれば生活が症状に振り回されなくなるという意味で、とっても治療しがいのある病気だと思います。

このホームページでは、出来るだけわかりやすく心の病気について説明していますので、他の記事もぜひ読んでいただき、病気の理解を深めてもらえれば幸いです。

このページの著者:臼井 敏晶 医師
内容への問い合わせ先:Web問い合わせ

院長臼井敏晶医師
診察室での院長

資格

・日本精神神経学会認定 精神科専門医
・厚生労働省認定 精神保健指定医
・日本医師会認定 認定産業医
・厚生労働省認定 麻酔科標榜医
・日本麻酔科学会認定 麻酔科認定医(2017年~2022年迄)

略歴

愛知県立明和高校卒業後、山梨大学医学部医学科へ進学。卒業後は豊田厚生病院での研修を経て名古屋大学精神科へ入局。その後、大学の関連病院で勤務の後、2022年に大曽根駅前こころのクリニック院長就任。
 詳しいプロフィールはこちら》

参考
  • DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き:アメリカの、こころの病気の統計をとるための教科書です。
  • 日本精神神経学会専門医認定試験問題集解答と解説第1集:日本精神神経学会が発刊している専門医認定試験対策の問題集です。こちらの内容を今回の投稿では参考にしています。

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