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うつとは。精神科専門医がイメージ化して説明するうつ病の仕組みと治療法

脳とセロトニンとうつの仕組みうつ


今回はうつ病の仕組みを知った上で、治療について解説していきます。
うつ病は、現在では脳の病気と言われています。
その仕組みを理解する上でカギとなるのは「セロトニン」という物質です。
※他にもノルエピネフリン、ドパミン、また遺伝など様々な要因が関わっていますが、ここでは分かりやすくするためにセロトニンにしぼって話をすすめますこのページはうつ病の原因の一つとして有力なモノアミン仮説に基づいて作成しています。

うつ病の仕組み(脳とセロトニン)

脳とセロトニンとうつの仕組みのイラスト

セロトニンは神経と神経を行き来する物質です。
そしてセロトニンはストレスで減ってしまいます。
脳がセロトニン不足になると、不安やうつ、パニックなど、こころの症状を引き起こします。
うつ病患者さんの脳では、セロトニン不足が起こっていると考えられています。

ストレスとセロトニンと脳の模式図

上の穴の空いた水槽の図で、

  • 水槽の水 → セロトニン
  • 水槽に空いた穴 → ストレス
  • 中の魚  → あなたの脳

だと思って下さい。

穴から水(セロトニン)が全てこぼれ落ちてしまうと、魚(あなたの脳)が泳げなくなってしまいます。これがうつ病によるセロトニン不足のために脳が機能しなくなった状態だとイメージして下さい。

うつ病の脳の模式図

魚が泳げないというのは、脳がうつのために意欲が下がる、集中力が続かず仕事でミスを繰り返す、気持ちが落ち込む、ずっと不安・・・などの状態を指します。

うつ病の治療

では、この魚(うつ病の脳)を助けるにはどうしたら良いでしょうか?
それには、

  1. 水(=セロトニン)を漏らさない。
  2. 水(=セロトニン)を増やす。

という事が重要です。
では、それぞれについて解説していきます。

水(=セロトニン)を漏らさない ➡ 水槽の穴(=ストレス)をふさぐ ➡ 生活環境の調整

環境調整

まずは水槽の穴(=ストレス)に栓をして応急処置を行い、これ以上水(=セロトニン)が減らないようにしましょう。
水槽の穴(=ストレス)を小さくする取り組みを「環境調整」と言います。
環境調整は実際の患者さんからヒアリングを行い、患者さんのストレスの原因を探って行います。
例えば以下のようなものが環境調整です。

働き過ぎと父の介護が同時に起こり、うつ病になってしまったAさん

過労でうつ病になった患者さん

例:会社勤務のAさんは、4月から新しい部署に異動になったが、新しく覚える仕事も多く、毎日夜10時まで残業するようになった。同じ時期に父が脳梗塞で倒れ、長男という責任感から父の看病も積極的におこなっていたが、やがて心身が不調になり、上司の勧めで受診した精神科でうつ病と診断された。

Aさんの環境調整
  • 病院で「うつ病治療のため残業制限を要する」という診断書を貰って職場に提出して、上司に事情を説明。父の看病が落ち着くまでは残業をしないように配慮してもらった。
  • 上司に相談し、前の部署に戻してもらう事で残業を減らした。
  • 弟に事情を説明し、父の看病について弟と分担するようにして看病の負担を減らした。
  • 治療に専念するため、休職診断書を精神科で貰って一旦父の看病のみに専念できるようにした。

産後うつになったBさん。

産後うつの患者さん

例:Bさんは産後、夜間に何度も赤ちゃんに授乳で呼ばれ、睡眠不足が続いた。また、夫は仕事が忙しく育児にあまり協力出来ていない。夫の両親が近くにいるものの、自分の両親ではないので頼りづらいと感じている。

Bさんの環境調整
  • 夫に育児へ積極的に参加してもらい、妻の負担を減らす。そのために夫と共に精神科を受診して、医師から夫に状況を説明してもらった。
  • 夫が朝の洗濯物を干すなど、家事を積極的に行うことで妻の負担を減らすようにした。
  • 母乳栄養から、夜間は粉ミルクも活用する混合栄養に切り替え、夜は夫や夫の両親が粉ミルクで授乳して妻の睡眠を確保するようにした。
  • 夫から夫の両親に事情を説明してもらい、夫の両親に積極的に頼ることで妻の負担を減らすようにした。週に2回夕食を両親の家に食べに行き、夕食作りも片づけも夫の両親に頼った。

このような取り組みを、水(=セロトニン)を漏らさないための環境調整と言います。

水(=セロトニン)を増やす ➡ 抗うつ薬の内服

抗うつ薬の効果の模式図

穴を修理したら、今度は水(=セロトニン)を増やしてあげましょう。
これには「抗うつ薬」を使います。
抗うつ薬は、脳におけるセロトニンを増やす効果があるのです。
しかし、睡眠薬や痛み止めのように飲んで30分で効いてくるような薬とは違います。

うつ病の脳の模式図

この状態の水槽の水(=セロトニン)を、魚(=うつ状態の脳)が泳げる深さになるまで増やす訳ですから、お風呂のお湯をためるように長い時間かけて水(=セロトニン)を増やし続けなければなりません。具体的には、3~4週間かけて抗うつ薬を飲み続けるとやっと効果が出てきます。
また、水槽の穴(=ストレス)をふさぐ図を見て下さい。

環境調整
患者さん
患者さん

あれ? 結構まだ水が漏れてるぞ!?

そうです。まだ少し水(=セロトニン)が漏れていますよね!
現実世界でもこの図と同じ事が起きます。つまり、完全に穴(=ストレス)をふさぐのは難しいのです。先ほどの例に出てきたAさんが、休職して仕事から離れることが出来ても、週に1回くらいは職場と連絡を取り合いますし、父の看病から完全に離れる事も出来ません。産後うつのBさんが、完全に子育てから離れるのも難しいです。

つまり、治るためには、
「わずかに漏れ続けるより多いペースで増やす!」
という事が求められます。

抗うつ薬の増量の模式図

この写真のように3か所から水を入れれば、
「水の漏れる勢い」<「水が増える勢い」
となって、完全に水槽の穴(=ストレス)を修理出来なくても、水(=セロトニン)が増えていって、症状が改善するのを期待出来ます。

これが、抗うつ薬の「増量」という方法のイメージです。
患者さんが日常生活を送れるようにすることが治療ですので、増量することもあります。
でも、薬でゴリ押しする無理矢理感がありますよね。

出来れば薬を増やすのではなく、環境調整でストレスを減らすことで、
「水の漏れる勢い」 < 「水が増える勢い」
としたいものです。

説明する女医の写真

さて、いかがでしたでしょうか?
今回は、うつ病の仕組みをイメージ化して説明しました。
実際にはもっと様々な要因の関連した複雑な仕組みなので、うつの一部を切り取っただけではありますが、「環境調整」と「抗うつ薬」のイメージ、そして薬だけでなく、水槽の穴をふさぐ「環境調整」の大切さが伝われば幸いです。穴(=ストレス)が大きいまま抗うつ薬を飲んでもなかなかうつ病は治りにくいのです。

このホームページでは、出来るだけわかりやすく心の病気を説明するよう心掛けていますので、他の記事も是非読んで頂き、病気の理解を深めて頂ければ幸いです。

参考
  • カプラン臨床精神医学テキスト第11版:精神科医のバイブルの教科書の一つです。非常に詳しく精神疾患について解説してあります。
  • e-ヘルスネット:厚生労働省が運営するホームページです。

著者:臼井 敏晶医師

院長臼井敏晶医師
診察室での院長

資格・所属学会

精神科専門医 / 精神保健指定医(厚生労働省) / 日本医師会認定産業医 / 麻酔科標榜医 / 麻酔科認定医(2017年~2022年)・日本精神神経学会 / 日本ADHD学会

略歴

愛知県立明和高校卒業後、山梨大学医学部医学科へ進学。卒業後は豊田厚生病院での研修を経て名古屋大学精神科へ入局。その後、大学の関連病院で勤務の後、2022年に大曽根駅前こころのクリニック院長就任。
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