うつではないけど、治療に抗うつ薬を使う病気シリーズです。
今回は突然、ドキドキして呼吸が苦しくなって恐怖を感じる「パニック障害」について説明します。
パニック障害とうつ病は同時に発症することも多いんですよ!
パニック障害とは
パニック障害とは、突然に
- 心臓がドキドキしてくる。
- 息が苦しくなる。
- 気が遠くなる。
などの体の症状が出て、「何か自分の体に大きな問題が起きているのでは!」という強い不安を感じるけれども、数十分我慢しているうちにおさまってしまう「パニック発作」を何度も繰り返す病気です。突然に症状が出るので、夜寝ているときにパニック発作で目覚めてしまうこともあります。
パニック障害の特徴
パニック障害は、
- 100人に1~2人くらい発症する割と多い病気。
- 若い年代に多い。(平均発症年齢25歳)
- 女性は男性の2~3倍多い。
- 他のこころの病気と同時にみられることが多い。
という特徴があります。
パニック発作は
ひょっとしてこのまま死ぬの!?
と感じるほど強く、患者さんは救急車を呼んで救急外来をはじめに受診し、そこで検査を受けても体の異常がみつからなくて精神科を受診するケースも多いです。
5人に1人は失神してしまうくらい、パニック発作の症状は強いんです。
また、パニック発作を繰り返すうちに、
- バスや電車に乗ってるときに出たらどうしよう?
- 美容院で髪を切ってるときに出たらどうしよう?
- 職場で出たらどうしよう?
などの、また発作が出ないか不安でしょうがない「予期不安」という症状を伴うようになります。この予期不安のために外出範囲がせまくなってしまったり、ひどい場合には家から出られなくなってしまうこともあります。
パニック障害のセルフチェック
以下のような症状のうち、いくつかが同時に突然起こり、何度も何度も繰り返す場合にはパニック障害の疑いがありますので病院を受診することをお勧めします。
パニック障害に似た体の病気
パニック障害とよく似た症状は心臓や肺や甲状腺など体の病気でも出ます。
もし、心臓や肺の病気の場合、すぐに命にかかわる重大な病気も多いため、内科や救急外来できちんと検査を受けることは大切です。
パニック障害の原因
パニック障害の原因は、完全にはわかってはいませんが、
- 脳の調節機能の異常
- 遺伝
- ストレス
などが関係していると考えられています。
脳の調節機能の異常
パニック障害の症状は、交通事故に遭いそうになったり、ライオンを近くで見たりなど、人間が命の危機を感じた場面で起こる体の反応と似ています。
- 心拍数や呼吸数が早くなり、全身に酸素と栄養をみなぎらせる。
- 汗をかいて全力で走って逃げても体温が上がり過ぎないようにする。
これらは本来は危険な場面で生き残りやすくするために備わっている機能です。パニック障害の患者さんでは脳の自立神経系の機能に異常が起こって、安全な場面で緊急時の体の反応が出ていると考えられています。
具体的な脳の画像研究によると、脳の側頭葉と呼ばれる部分に機能の異常が起こっていると考えられています。
遺伝
パニック障害患者さんの子どもや、兄弟姉妹ではパニック障害の発生率が4~8倍であることがわかっており、遺伝要因があると考えられています。
ストレス
パニック障害の患者さんでは健康な人と比べて、大切な人を失う経験などの大きなストレスを、発症する数か月前に体験していることが多いです。心理的因子の関連が考えられています。
治療
治療には、
- 薬による治療
- 精神療法
という方法があります。
また、パニック発作は特定の物質で出やすくなるので、それを避けることもポイントです。
薬による治療
薬による治療には大きく、
- 発作が出ないようにする薬
→ 抗うつ薬の使用 - 発作が出てしまったときに使う薬
→ 抗不安薬の使用
の2種類があります。
1.発作が出ないようにする薬
これは、パニック障害の原因の中の「脳の調節機能の異常」を改善させる薬です。具体的には脳のセロトニンを増やして自律神経系を整える作用のある抗うつ薬を使用します。
脳とセロトニンの関係については、以下のページに詳しく書いてあります。
2.発作が出てしまったときに使う抗不安薬
抗うつ薬は飲み始めてから効果が出るまでに3~4週間ほどかかります。
そのため治療を開始してから抗うつ薬が効いてくるまでは抗不安薬に頼ります。
抗不安薬には、
- 出てしまったパニック発作を押さえ込む。
- すぐ効く。
- 不安はおさまるけど治療薬ではない。
という特徴があります。
よく効きますが治療薬ではありません。
虫歯の治療をしたときの痛み止めのように、症状を減らすだけの薬です。
また、抗不安薬には
- 不安感を減らす作用。
- 筋肉の緊張をやわらげる作用。
- 眠たくなる作用。
があるため、使用後は眠たくなって転びやすくもなります。
更に、使用し過ぎると
- やめにくくなる依存性
- 少しずつ効きが弱くなる耐性
という副作用もあります。
抗不安薬の使い過ぎには注意が必要です。
パニック発作が出やすくなる物質
パニック発作は、以下の物質で出やすくなるとされます。
二酸化炭素
二酸化炭素は車の排気ガスや、人間の吐く息に多く含まれます。そのため、排気ガスが多いところや人が密集したところは避けた方が良いです。
カフェイン
カフェインはパニック発作を出やすくします。
そのため、カフェインを多く含む食べ物に注意しましょう。
乳酸ナトリウム・重炭酸塩
乳酸ナトリウムは食品を安定に保つために多くの食品に添加物として使用されてはいます。重炭酸塩は重曹などベーキングパウダーとしてお菓子に使用されていることがあります。
精神療法
精神療法にはいろいろ技法が含まれますが、まずはパニック障害について知ることがポイントです。
患者さんはパニック発作が起こったときに
ひょっとしてこのまま死んでしまうの!?
と考えて焦ってしまう傾向にあります。
まず知るべき大事なポイントは、
と知ることです。
未知の呼吸苦と、上の2点を知ったうえでの呼吸苦では心の余裕が違います。
その上で、薬にも頼りながらパニック障害が出やすい状況に脳を慣らしていく行動療法などもおこなっていきます。
パニック障害の治療経過
パニック障害は治療により、
- 30~40%の患者さんは長期間無症状を維持できる。
- 約50%の患者さんでは軽度の症状が残るけども、日常生活が大きくさまたげられることはない。
とされます。治療によく反応する病気です。
今回はパニック障害の説明でした。
パニック障害はうつ病をはじめとした、他のこころの病気と同時にみられることも多い病気です。
このホームページでは、出来るだけわかりやすく心の病気について説明していますので、他の記事もぜひ読んでいただき、病気の理解を深めてもらえれば幸いです。
資格
・日本精神神経学会認定 精神科専門医
・厚生労働省認定 精神保健指定医
・日本医師会認定 認定産業医
・厚生労働省認定 麻酔科標榜医
・日本麻酔科学会認定 麻酔科認定医(2017年~2022年迄)
略歴
愛知県立明和高校卒業後、山梨大学医学部医学科へ進学。卒業後は豊田厚生病院での研修を経て名古屋大学精神科へ入局。その後、大学の関連病院で勤務の後、2022年に大曽根駅前こころのクリニック院長就任。
詳しいプロフィールはこちら》