うつ病とまったく同じ症状が出るこころの病気に、躁うつ病という病気があります。躁うつ病は、正確には双極性障害と言います。今回はうつ病と似ているけど異なる双極性障害について説明していきます。
双極性障害(躁うつ病)とは。
双極性障害とは、うつ病と同じ症状が出る時期と、躁状態といって元気すぎる時期とを何度も繰り返す病気です。患者さんは平均して9回の躁状態とうつ状態を繰り返すとされています。
アメリカでの統計によると、
- 発病する平均年齢は21.2歳でうつ病の平均発病年齢より若い。
- 100人に1人くらいの病気(生涯有病率は0.4~1.6%)。
- 自殺の危険性は一般人口の少なくとも15倍と高い。
などの特徴も報告されています。
双極性障害の症状、セルフチェック。
1日~2日元気が良かったり、テンションが高くても躁状態とは言いません。また、ひとつの活動にだけ熱中していても躁状態とは言いません。
ほぼ毎日、1日のほとんどの時間、朝も夜も4日間以上の間、以下の症状がいくつも当てはまる場合に躁状態といいます。
もし、今がうつの状態であっても、過去に躁状態が何度かあった場合は、うつ病ではなく、双極性障害(躁うつ病)の疑いがあるので注意が必要です。
双極性障害では、うつ病より自殺率が高いです。
アメリカの統計ではありますが、全ての自殺者の4分の1が双極性障害ともいわれています。
躁状態の患者さんの75%で妄想(自分は大金を持っている、天皇と血がつながっているなど)がみられることもあり、躁状態のときも注意が必要です。
双極性障害(躁うつ病)の原因。
双極性障害の原因は解明されてはいませんが、いくつかの研究では、うつ病と比べて遺伝の影響が大きいと報告されています。
遺伝要因
双子には、完全に同じ遺伝子をもつ1つの卵子から2人になった一卵性双生児と、異なる遺伝子をもつ2つの卵子から2人になった二卵性双生児と2種類があります。
- 一卵性双生児:完全に同じ遺伝子をもつ。
- 二卵性双生児:遺伝子は異なる。
双子のうち1人が双極性障害であったとき、双子のもう1人も双極性障害である一致率は、
- 一卵性双生児で60~70%
- 二卵性双生児で約15%
である事が示されています。
遺伝子が全く同じ一卵性双生児の方が圧倒的に一致率が高いことから、双極性障害の遺伝要因の関与が大きいと考えられています。
また、近年のゲノム解析研究によると、カルシウムチャネルα1サブユニット遺伝子(CACNA1C)と双極性障害の関連も報告されています。
心理的要因
別居・離婚・死別を経験した人は、そうでない人より双極性障害の発病率が高く、因果関係は不明ではありますが、心理的因子の関連が考えられています。
双極性障害の治療。
双極性障害の治療は薬による治療がメインになります。
具体的には、気分の波を小さくする気分安定薬と呼ばれるものを内服することで、気持ちが上がり過ぎる躁状態、気持ちが下がり過ぎるうつ状態になることを予防します。
うつ病でも双極性障害(躁うつ病)に注意する患者さん。
現在うつ病として治療中の患者さんでも、以下の項目にいくつか当てはまる場合は、将来、躁状態が表れて、双極性障害(躁うつ病)に病名が変わる可能性がありますので、精神科医は注意して経過をみています。
躁状態とうつ状態、どっちの症状が長い?
双極性障害と診断されたけど、元気な時なんてほぼなくて、ほとんどうつ状態なんだけど? ホントに双極性障害なのかしら?
患者さんによってはこのような疑問を持つ方もいると思います。
双極性障害は
- 躁状態の重い → Ⅰ型
- 躁状態が軽い → Ⅱ型
の2種類があります。そして10年以上双極性障害の患者さんをフォローした研究によると、
- 双極Ⅰ型障害は、全期間の3分の1以上がうつ
- 双極Ⅱ型障害は、全期間の3分の2以上がうつ
というように、双極Ⅱ型障害ではうつ状態の期間の方が長いという結果になっています。
今回は双極性障害(躁うつ病)の説明でした。実際に病院で治療している感覚で、他の病院から「うつ病」と紹介されてくる患者さんの10人に1人くらいは双極性障害が混ざっているような印象です。
また、うつからはじまって、治療中に躁状態が見つかって病名が変わることもあります。
うつ病と双極性障害(躁うつ病)では治療薬も全く異なりますので注意が必要ですね。
このホームページでは、出来るだけわかりやすく心の病気について説明していますので、他の記事もぜひ読んでいただき、病気の理解を深めてもらえれば幸いです。
資格
・日本精神神経学会認定 精神科専門医
・厚生労働省認定 精神保健指定医
・日本医師会認定 認定産業医
・厚生労働省認定 麻酔科標榜医
・日本麻酔科学会認定 麻酔科認定医(2017年~2022年迄)
略歴
愛知県立明和高校卒業後、山梨大学医学部医学科へ進学。卒業後は豊田厚生病院での研修を経て名古屋大学精神科へ入局。その後、大学の関連病院で勤務の後、2022年に大曽根駅前こころのクリニック院長就任。
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