うつではないけど、治療に抗うつ薬を使う病気シリーズです。
今回は人前でドキドキして赤くなり、緊張し過ぎてしまう「社交不安障害」について説明します。
社交不安は、
「恥ずかしがりやなだけ。」
「自分の性格だからしょうがない。」
と思って、病院で治療を受けていない患者さんがいます。
治療を受けた経験がない人ほど、治療しがいのある病気ですね。
社交不安障害とは
社交不安障害とは、スピーチなど他の人の視線が集まるような状況で著しい不安、恐怖を感じて赤面したり、声が出なくなったりなど思うように振る舞えなくなってしまう病気です。
社交不安障害の具体的な症状
社交不安障害では、視線が集まる場面で過剰な緊張のために以下のような症状が出ます。
社交不安障害の方が苦手な場面
社交不安障害の患者さんは、他の人の視線が集まる場面が苦手なため、以下のような状況で症状が目立ちます。
人前に出ることを想像するだけで、「恥をかいてしまう。」「あがっている様子をみられて自分の評価が下がってしまう。」などと考え、次第に人前に出る状況を避けて生きるようになり、試験や就活、仕事などに支障が出てしまいます。
社交不安障害の診断・セルフチェック
以下の項目がいくつもあてはまり、その症状のために生活や仕事で支障が出ている場合には社交不安障害の疑いがありますので病院を受診することをお勧めします。
社交不安障害の原因
社交不安障害の原因については、完全にはわかってはいませんが、
- 脳の調節機能の異常
- 遺伝
などが関係していると考えられています。
脳の調節機能の異常
社交不安障害の患者さんは、
- ドパミンやノルアドレナリンという自律神経を調節するホルモンの量が多すぎる。
- 上記のホルモンへの感受性が高すぎる。
可能性が考えられています。
具体的な脳の画像研究によると、脳の線条体と呼ばれる部分に機能の異常が起こっていると考えられています。
遺伝
社交不安障害の患者さんの子どもや、兄弟姉妹では社交不安障害の発生率が3倍であることがわかっており、何らかの遺伝要因があると考えられています。
治療
治療には、
- 薬による治療
- 精神療法
という方法があります。
薬による治療
薬による治療には大きく、
- 脳の調節機能を改善する薬
→ 抗うつ薬の使用 - その場をしのぐための、すぐに効く薬
→ 抗不安薬の使用
の2種類があります。
1.脳の調節機能を改善する薬
これは、社交不安障害の原因の中の「脳の調節機能の異常」を改善させる薬です。具体的には脳のセロトニンを増やして自律神経系を整える作用のある抗うつ薬を使用します。
脳とセロトニンの関係については、以下のページに詳しく書いてあります。
セロトニンが増えると不安感が減ります。
2.その場をしのぐための、すぐに効く薬
抗うつ薬は飲み始めてから効果が出るまでに3~4週間ほどかかります。
そのため治療を開始してから抗うつ薬が効いてくるまでは抗不安薬に頼ります。
抗不安薬には、
- 不安感や筋肉の緊張をやわらげる。
- すぐ効く。
- 不安はおさまるけど治療薬ではない。
という特徴があります。
よく効きますが治療薬ではありません。
虫歯の治療をしたときの痛み止めのように、症状を減らすだけの薬です。
また、抗不安薬には
- 不安感を減らす作用。
- 筋肉の緊張をやわらげる作用。
- 眠たくなる作用。
があるため、使用後は眠たくなって転びやすくもなります。
更に、使用し過ぎると
- やめにくくなる依存性
- 少しずつ効きが弱くなる耐性
という副作用もあります。
抗不安薬の使い過ぎには注意が必要です。
精神療法
精神療法の中でも認知行動療法は社交不安障害によく使われます。
緊張する場面に対する本人の考え方(認知)を少しずつ変えていき、更に薬にも頼りながら社交不安障害が出やすい状況に脳を慣らしていく行動療法をおこなっていきます。
さて、今回は社交不安障害の説明でした。社交不安障害はうつ病をはじめとした、他のこころの病気と同時にみられることも多い病気です。
このホームページでは、出来るだけわかりやすく心の病気について説明していますので、他の記事もぜひ読んでいただき、病気の理解を深めてもらえれば幸いです。
資格
・日本精神神経学会認定 精神科専門医
・厚生労働省認定 精神保健指定医
・日本医師会認定 認定産業医
・厚生労働省認定 麻酔科標榜医
・日本麻酔科学会認定 麻酔科認定医(2017年~2022年迄)
略歴
愛知県立明和高校卒業後、山梨大学医学部医学科へ進学。卒業後は豊田厚生病院での研修を経て名古屋大学精神科へ入局。その後、大学の関連病院で勤務の後、2022年に大曽根駅前こころのクリニック院長就任。
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