不眠でお悩みの方は、よく精神科に受診されます。今回は、薬に頼らず自分で睡眠を改善する方法について説明していきましょう。
目次を見て、気になるところから読んでもらって大丈夫な構成になっています。
朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びる。
朝の太陽の光には体内時計を調節する効果があります。
曇りの日だと、効果はないのかしら❓
曇りの日でも効果はあります!
蛍光灯による室内の明るさは約500ルクス前後です。晴れの日の昼間の太陽の明るさは約10万ルクスあり、曇りの日でも約2万~3万ルクスあります。そのため曇っていても外の光を浴びることには効果があります。
何時間眠れたかではなく、日中に眠くて困っているかを不眠の目安にする。
睡眠時間には、
- 年齢による差
- 季節による差
- その日の活動による差
があります。いつもと同じように眠れなかったり、周りの人より眠れなかったとしても、必ずしも不眠症ではありません。日中に眠くて困っているかを目安にすると良いでしょう。昼食後に眠くなるのは自然ですが、それ以外の時間にも強い眠気におそわれる場合には睡眠不足の疑いがあります。
年齢による差。睡眠も老化する。
若い頃はたくさん眠れたんだが。
最近は昔ほど眠れなくて・・・
昔ほど眠れなくても、必ずしも不眠症ではありません。
実は、睡眠も老化するのです。
子どもの頃おばあちゃん家に泊まった時に、どうしておばあちゃんが朝早くから起きて活動出来るのか不思議に思ったことはありませんか?
その答えは孫とおばあちゃんの年齢にあります。
健康な3577人の睡眠時間を調べたところ
- 15歳 → 約8時間
- 25歳 → 約7時間
- 45歳 → 約6.5時間
- 65歳 → 約6時間
なんと、20歳以降は20年ごとに約30分ずつ睡眠時間は短くなっていきます。
更に、約6万人を対象に調べた研究では、年をとるにつれてどんどん朝早く目覚めるようになり、この傾向は女性より男性で強くみられることもわかっています。
季節による差。
睡眠時間は季節によって変わります。
研究によると、夏など日の長い季節では短くなり、冬など日の短い季節には長くなる傾向があり、その差は約25分ありました。冬より夏は早く目が覚めてしまうという事です。
その日の活動による差
研究によると、日中活発に過ごすと長い睡眠が必要になる事が示されています。
プールや海でたくさん遊んだ日にはとても眠くなりますよね。
逆にあまり活動していない日は普段より眠れなくても心配しなくても良いということです。
適度な運動を行う。寝る直前に激しい運動は行わない。
日本人の高齢者を対象にした研究では、1日30分以上のウォーキングを週5日以上行っている人や週5日以上の運動習慣のある人は、運動をしていない人より寝つきが良く、途中で目が覚める人も少ないという結果になっています。ただし、寝る直前の激しい運動はお勧め出来ません。激しい運動で目が覚めてきてしまうからです。
カフェインは寝る4時間以内に飲まない。
カフェインには目が覚める作用があり、この作用は3時間ほど続きます。また利尿作用と言っておしっこに行きたくなる作用もあります。どちらの作用も睡眠には悪影響です。
カフェインが含まれる食べ物は夜は寝る4時間前から避けて下さい。特にエナジードリンク系はカフェインの量が多いので注意です。
意外と寝る前に紅茶や緑茶を飲んでいる患者さんはたくさんいます。カフェインが含まれているので寝る前は避けた方が良いですね。
朝食を食べ、夜食は控える。
朝食で体に栄養を行き渡らせ、こころとからだを目覚めさせるのは重要です。
反対に、夜食を食べると不眠になります。研究によると、夜食で摂取したカロリーと、寝つきの悪さおよび睡眠効率(= 実際の睡眠時間 ÷ ベッドにいた時間)の低さは関係する事が示されています。良い睡眠のためには夜食は控えた方が良いです。
お腹いっぱいの方が眠れるようなイメージがありますが、研究結果は逆なんですよ。イメージと逆なので注意しましょう。
快適に眠れる寝室にする。
快適に眠れる寝室のポイントは、
- 光
- 騒音
- 温度と湿度
です。
光
光には交感神経を高めて目を覚まさせる効果があり、青白い光や白っぽい光は暖色系の光より、目を覚まさせる効果が強いです。寝る前に普通の照明より明るい空間で数十分過ごすだけでも、寝つきが悪くなるとされています。
これらの光の効果を考えると、
- 寝室の照明は暖色系のオレンジっぽいものにする。
- 寝る前には、明るい環境を避ける。
- 外の光を遮光カーテンで遮って朝まで室内を暗いままに保つ。
というのが寝室の「光」のポイントです。
疲れて寝落ちしてしまうこともありますが、明るい中で寝ても疲れは取れにくいです。寝室へ行って暗い環境で眠るのが大事ですね。
騒音
夜間の音は、静かな話し声程度(45~55デシベル)であっても、睡眠が悪化すると言われています。また反対に、全くの無音の実験室では感覚が過敏になり些細な物音でも不安や緊張が高まると言われています。日常生活では実験室のような無音はないと思いますので、寝室は静かな環境の方が良いということです。具体的には
- じゅうたんを敷く。
- ドアの隙間を防音テープなどで埋める。
などを行うのが有効です。ホームセンターに防音テープなど防音グッズは売っています。
テレビをつけっぱなしで寝るというのは、「光」と「音」の両方の理由から避けた方が良さそうですね。
温度と湿度
快適に眠るためには、「体温をじわじわ下げる」というのがポイントです。
人間は体温がじわじわ下がる時に眠たくなるようになっています
布団やパジャマの影響をなくすためにほぼ裸で行われた実験によると、室温が29~34度の時の睡眠が最も安定し、これより低い室温や高い室温では途中で目が覚める事が増えたという研究があります。つまり、人間の平均的な体温である36度より少しだけ低い室温にして、「じわじわ」とゆっくり体温が下がるときに最も快適に眠れるという事です。また、同じ室温で湿度のみを変えた実験では、高湿度ほど不眠になる事が示されています。
実際には裸ではなく、パジャマや布団を使用して、体のまわりを29~34度にするのが良いです。その場合の室温は25度前後で自分が快適と感じる温度にすると良いでしょう。
梅雨の時期、高温多湿の夏は不眠になりやすいためエアコンや除湿器で室温と湿度をコントロールすることが快適に眠るためには重要です。
- からだの周囲を体温より少し低い29~34度になるように調節する。
- 布団やパジャマを使うため、実際の室温は25度前後で自分が快適と感じる室温にする。
- 湿度が高いと睡眠が浅くなる。
寝る前の1時間はスマホを使わず、リラックスして過ごす。
最近はスマートフォンで寝る直前までゲームをしたり、SNSを見て過ごす方も多いと思います。
眠る前にスマホでゲームを行うと、スマホからの明るい「光」による刺激と「楽しさ」で脳は興奮した状態になり、スムーズに寝つけなくなってしまいます。
寝る前1時間は、暖色系の明る過ぎない照明のもとで、読書やストレッチなどをして過ごすのがお勧めです。
お風呂は40度程度のぬるま湯で、寝る30分以上前には入る。
一つ前の「温度と湿度」にあるように、人間は体温がじわじわゆっくりと下がるときに眠くなるように出来ています。そのためには、40度くらいの温度でゆったりと入浴するのがポイントです。このような入浴後は手足の血管が開くことで、お風呂から出た後にじわじわと体温を下げる効果があります。反対に42度以上の熱いお風呂は体温を上げ過ぎて目が覚めてしまい、寝つきが悪くなるので避けましょう。
「ぬるいな。」って感じるくらいがお風呂の適温です。
寝るためのアルコールは逆効果。
お酒を飲むと眠くなりますよね。
でも、お酒を飲むと実は睡眠には逆効果なんです。
研究でアルコールの睡眠への影響は、以下のように示されています。
つまり、1の効果で寝つきは良くなるのですが、
2と3の効果で睡眠としては浅くて短く、熟睡は出来ないという事です。
更に寝る前に水分を多く飲むと、おしっこに行きたくなる影響で目が覚めやすくもなります。
また、アルコールには「耐性」という問題があります。耐性というのは、俗に言う「お酒に強くなる」という現象で、はじめは少量でも眠れていたのに、だんだん効かなくなってお酒の量が増えて行くという問題です。こうなるとアルコール依存のリスクも高まります。
個人的には、最も身近にあって最も怖い薬物はアルコールだと思っています。アルコール依存症になると、治療はとっても大変です。
寝る前のタバコも逆効果。
「寝れないから一服して気持ちを落ち着けよう。」って考えた事は、タバコを吸う人は誰しも経験があると思います。しかし、タバコに含まれるニコチンには覚醒作用(目が覚めてくる作用)があるため、吸うと逆に寝付けなくなってしまいます。寝る前のタバコは控えた方が良いです。
昼寝は20分程度で15時以降は避ける。
20分程度の上手な昼寝は、脳と体をスッキリさせて午後の作業効率を良くします。
一方で長過ぎる昼寝は、目覚めた後もぼーっとした状態が長く続き、作業効率が低い状態が続きます。
この寝起きのぼーっとした状態を「睡眠慣性」と言い、目は開いてるけど、脳は半分寝ている状態の事を指します。
深い睡眠から急に起きると睡眠慣性は強く長い時間続き、浅い睡眠から起きた場合の睡眠慣性は短い時間でなくなります。そのため、昼寝で深い睡眠に入ってしまわないように、アラームをセットして20分程度で起きた方が良いのです。
また、夕方以降の昼寝は睡眠慣性が生じやすいため、15時以降は昼寝を控えましょう。
寝るためだけにベッドを使う。
わざと長い時間ベッドで過ごさせた研究によると、ベッドで過ごす時間が長いほど
- 寝つくまでの時間が延長。
- 途中で目が覚める回数が増える。
という結果になっています。必要以上にベッドで長く過ごす行動は不眠につながり、寝る時以外にベッドで過ごす時間は減らした方が睡眠には良いでしょう。
眠くなってからベッドへ行き、起きる時刻は毎日同じにする。
起きる時間から、7時間くらい引き算してベッドに入る方は多いですが、いつも眠る時間の2~3時間前は1日の中で最も寝つきにくい時間です。また、日によって寝つける時間は「季節」「日中の活動」の影響を受けて変わります。そのためベッドに入っても眠れないために不安が高まって更に眠れなくなるという悪循環につながる場合もあります。
起きる時間のみを決めて、眠くなったらベッドに行く方が良いです。
これは不眠症に対する認知行動療法としても効果が確認されている方法です。
さて、最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事の内容は厚生労働省が発表している「健康づくりのための睡眠指針 2014」という87ページあるものを、精神科医が専門用語を避けて、見やすく且つわかりやすく解説したものです。
試してみたけど不眠が治らないよと言う方は、お近くの精神科で御相談することをお勧め致します。不眠は生活習慣病や抑うつにつながる事が示されています。なるべく早く眠れるようになる事が大事です。
このホームページでは、出来るだけわかりやすく心の病気を説明するよう心掛けていますので、他の記事も是非読んで頂き、病気の理解を深めて頂ければ幸いです。
資格
・日本精神神経学会認定 精神科専門医
・厚生労働省認定 精神保健指定医
・日本医師会認定 認定産業医
・厚生労働省認定 麻酔科標榜医
・日本麻酔科学会認定 麻酔科認定医(2017年~2022年迄)
略歴
愛知県立明和高校卒業後、山梨大学医学部医学科へ進学。卒業後は豊田厚生病院での研修を経て名古屋大学精神科へ入局。その後、大学の関連病院で勤務の後、2022年に大曽根駅前こころのクリニック院長就任。
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